重松清「いとしのヒナゴン」読了

ひょんなことから、

「是非、読んでみてください。」

手渡された文庫本の表紙には

「いとしのヒナゴン」

という文字。
私のバックグラウンドに繋がるという話も付け加えられながら
表紙を眺めて…

いとしのヒナゴン〈上〉 (文春文庫) 文庫 – 2007/9/4

はて?
ヒナゴン??

そういえば、たまに怪獣のように家の中を落書きで満たしたり、
液晶テレビを破壊したりする我が家の子どもたち(男の子に限る)…
長男も含めて、

「タツゴン!!」

とか、

「ケイゴン!!」

とか、言ってたなぁ。

子育てのお話なのかな?
いや、子どもにそんな呼び方するのは我が家だけか(笑)

思い巡らせながら背表紙のあらすじをチラ見すると、なんか違う!!

作者は、流星ワゴンなど多数の作品を手がけておられる重松清さん。
不思議な世界へ誘われた流星ワゴン。
楽しくかつ感動を携えて拝見した記憶があるだけに期待が高まります。

手渡された翌日には、早速、読み始めました。

結論から言うと…。
登場人物と私が暮らす地方の田舎がダブって見えつつ、
フィクション作品ながら、自分の頭の中ではノンフィクション変換されてしまう。

リアルな現実、それを和ませるような登場人物の個性的キャラ。
両者が共存して活字から目が離せなくなる、惹きつけ力の強い物語でした。

それは恐らく、私自身の境遇に重ねているところがあるかもしれません。

本書を貸して下さった方は、たまたまその日に私の半生を知ったばかり。
観察力、スゴいなぁ。

さて。
内容を知ってしまうと、面白さはめっきり減ってしまうので、
スリリングな展開に極力触れないよう読後感を書こうと思います。

文庫本の物語は上下巻に分かれています。

舞台は中国地方の山中にある田舎町。
20分ほど、少し車で足を伸ばすと、ちょっとした田舎の地方都市がある。
買い物や、生活に必要なものはそこで済ませることができる。
頭の中では、東栄町がイメージされました。

序盤から飛び出すのは…
ヒナゴン、類人猿課、伝説の悪ガキ町長、

ふぁ…ファンタジー??

かと思いきや、役場の現実主義による行政らしい言葉も並びます。
舞台になる夏から秋にかけ、そして冬という季節。
行政の節々、例えば予算編成など、極めつけは市町村合併の話など。

行政的なルールも、緩い会話の中にうまいこと潜り込まされています。
そのルールがあるからこそ、物語に現実感が増す。

産まれてからずっと郷土で過ごした男性学校教師、

中学校から受験をして都市部に出て、大学は東京へ、
そして郷土へUターンした男性役場職員。

東京に出てコピーライターという夢を叶えるために邁進していたが、
いろいろあって時限的に郷土に戻ってきて役場に入った女性。

この3人は同級生。25歳。

郷土に対する考え方は三者三様。

それぞれの論理がありのままに吐き出されますが、
どれが間違っている、正しい、そんな結論はありません。

それは田舎の現実としても一緒ですが、
25歳を迎えるまでに、三者共に経験してきた環境が異なるからこそ、
必要な役割分担が自然にできあがっていき、相乗効果として、
25歳の若者たちが短期間に発生する騒動の中で成長していく姿が描かれています。

その成長というのも、人間的成長はさることながら、
彼らの郷土に対する愛情が深く深く、読み進めるほどに深くなっていく。

いや、気付いていなかった愛情に気付づき始めたとも言うべきでしょうか。

その感覚は、私もかつて経験しました。

作品中では、登場人物たちへ、次から次へと決断すべきことが流れ込んできます。
それこそ、息をつく暇も無いくらいに。

決断には必ずリスクが伴い、
経験や知識を元にリスクを天秤にかける人、
はたまた、自分の勘を頼りに、潔く決断する人、勢いで突っ走る人。

自分からリスクを取りに行く人と、外堀を埋められてからリスクを取る人。

メインテーマをガチで攻めると、かなりお堅い物語になってしまうであろう内容ですが、
それを「ヒナゴン」や「伝説の悪ガキ町長と、取り巻きの皆さん」が
見事にハートウォーミングかつ笑いある物語に仕上げてくれます。

そして、私の視点で読み取ったメインテーマは

「Uターン者の郷土における在り方と政治」
ここでいう政治は、行政云々ではなくて、地域社会のパワーバランスのことです。

一度出ていったものが町に帰ってくるということ。
町に住む人の中で、不便だけれど我慢して住んでいるという感覚の人にとって、
わざわざ不便なところに戻ってくるというのは理解に苦しむ。
また、自分たちは我慢して住んでいるのに、あいつは一度、出て行った。

そうして後ろ指を指される。

一方で、田舎を外に売り出すときは
「田舎の人は心が温かい、自然がいっぱい、のんびりできる。」
というステレオタイプを設けるという矛盾。

もちろん、どちらも存在します。

存在することを、正々堂々と宣言している作品。

実際に、現実の田舎がそうなのか?そうじゃないのか?

答えを知りたい方は、田舎の人と「深く」付き合ってみて下さい。
良く分かるはずです。

それは、地域に対する自分の向き合い方に寄るということを。

田舎だろうが都会だろうが、
規律を同じくする特定規模の人間集団において、
特に日本においては全てが、いわゆるムラ社会です。

すなわち、はじかれている(ように感じる)のか、
仲間に入っている(ように感じる)のかは、自分次第。

ちょっと、脱線しました。

下巻の中盤からは、物語は加速度を高めていき、
もはや、手から本を離すことが困難になるほど、
物語の重心がひっくり返るわ、ひっくり返るわ、痛快すぎます。

地方在住、Iターン、Uターン、田舎町、そんなキーワードに合致する方、
むしろ、スローライフや大自然、温かい人と人との触れ合い、
そんなキーワードに合致する方は、是非、本書を手に取ってみて下さい。

素直に読み込めつつ、ここまでスゴイ社会である…とは言いませんが、
地域社会の構造がつかめるかも知れません。

都会の暮らしや人間関係に疲れて人と触れ合いたくないから、田舎に移住して、
自然と触れ合いながら独りの時間を過ごしたいたいという人が
暮らしやすい場所ではないということがわかるかもしれません(笑)

改めまして、ネタバレすると面白さが激減してしまうので、この辺で!

素敵な本との出会いをプロデュースしてくださったお母さまに感謝!

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